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ナショナリズムを超える新しい生活と感情を求めて
集合的記憶と普遍的価値のダイナミズムを読み解く

21世紀も半ばを迎えようとする今日、1990年代から民主化が開始された東アジアは、世界的な大転換に直面する今の世界への教訓と言えるでしょう。経済発展による⺠主化が成功しても、なお、国内外での歴史をめぐる紛争はやみません。また、西欧・大西洋世界においても、民主主義や人権という普遍的政治理念の起源となった地域であるにもかかわらず、格差の拡大や移民排斥をめぐるポピュリズム現象に象徴されるように、民主主義の「衰退」が言われています。

こうした現象は、単なるパワーや国益だけが国際関係を動かしているのではなく、ネーション自体を作っている根本規範やそれと結びついた国内の集合的記憶を、レベルを超えて、国際関係と結びつけて分析することの必要性を示唆しています。その結びつきを論じるためには、ネーション・国民を構成している要素としての価値・記憶・感情を、政治理念としての国内における民主主義を支える正統性や、国際的秩序を支える規範と結びつけて議論することが必要となると考えます。今こそ、普遍的理念を現実に機能させてきた国民的社会そのものに目を向け、国民という集団の相互的和解のあり方にも目を向ける必要があります。

和解学が、個々人を動かす様々な信念や感情を議論の対象とする知的インフラとして国際的に育まれ、社会的に共有される学知となってこそ、植民地支配の犠牲となったともいうべき個人の人権救済は、国家の主体とされる国民相互の信頼関係回復と共に平行して進み、その二つの課題は共に強めあい、補い合うように進行することでしょう。
本プロジェクトの共通テーマは、ネーションという集団それ自体が想像され生み出されている力学と、ネーション相互の和解に向けた条件や構造を、さまざまな異なる分析枠組みを総合し、あるいは融合させ、あるいは跨ぐことによって、探求せんとすることです。

繰り返しになりますが、本プロジェクトは、これまで国際関係学において主権の主体とされてきたネーション・「国⺠」という集団に注目し、国民を構成してきた要素(集合的記憶・感情・価値)を、分析枠組みを超えて検証することを共通の関心事としていきます。

従来の構築主義的国際関係学においても、もはやパワーと国益の議論だけで国際政治が語れず、規範に注目することの必要性が主張されています。ナショナリズムのイデオロギーが持つ、国内政治の規範としての力・正統性を生み出す力が、実は、人権や平和などの普遍的価値・規範とナショナルな記憶との融合を経て、国内の政治的正統性を供給し、国際政治のソフトパワーとして機能することは明白です。

こうした国内と国際という分析レベルを超えた現象にアプローチすべく、本プロジェクトでは、方法論として概念そのものの検証の必要性と、社会そのものを物理的に持続させていく教育・文化制度にも目を向け、哲学と教育学を国際関係学を主柱に組み合わせることで研究チームは組織されました。その上で、国境を超える想像力を現在でも担っているジェンダーやエスニシティー、そして階級をめぐる具体的な紛争の検証に特化した班も組織されています。

視野を世界に拡大し、ナショナリズムに内在する記憶・価値・感情というファクターを踏まえた、ナショナルな想像の共同体の構成と、その想像の共同体同士の共存を可能とするような和解のあり方が探求されなければなりません。