グローバルヒストリー安全保障と人権
ビョルン・ヴィックマン
Björn Wickman
代表業績
・東京大学の博士論文(2025年10月)
Commemoration and Condemnation in North Eurasia: A reexamination of the Japan-South Korea history issues through a comparative study of collective memory in the domestic politics and international relations of Finland and Korea(日韓歴史問題の再考:韓国・フィンランドの集合的記憶の比較分析)
・東京大学の修士論文(2022年3月)The Emergence of the Comfort Women Issue: A narrative analysis of discourses in Japan and South Korea from a constructivist dialogical perspective (1991-1993)(慰安婦問題の登場:構成主義的・対話法主義的視座から見た日韓マスコミ言説のナラティブ分析 (1991-1993年))
専攻分野
・記憶の政治学
・トランスリージョナル・ヒストリーの視座から見たグローバル・ヒストリ
目指す研究者像
将来の研究は、相互に補完し合う二つの分析視点から進めたいと思う。1)東アジアの視点から世界を読み解く、そして、2)世界の視点から東アジアを読み解く、という複合的視点を探りたい。こうした複合的視点から、国内政治と国際政治における集合的記憶の政治性に焦点を当てつつ、分裂と紛争につながる危険性、そして、和解と平和を促進する可能性、記憶の政治学の二面性を考察したいと考えている。
将来の研究は、バランスを追求した、三つの主要目標に基づいている。
第一の目標は、理想主義と実用主義とのバランスをとることである。ヴォルテールは「完璧は善の敵」という名言を残しているが、この意見に賛同はできない。完璧と善との調和こそが、第三の可能性、すなわち、「より良いもの」への追及を可能とすると信じている。これは、人間の主体性の力への信念を決して失わないと同時に、人間の力ではどうすることもできない構造が存在する事実を認めることを意味する。いわば、「より良いもの」への追及とは、「二―バーの祈り」にあるように、変えることのできないものを受け入れる力と、変えるべきものを変える勇気への渇望である。
第二の目標は、伝統と革新とのバランスをとることである。これまでの研究では、先行研究から多くのことを学んでいる。だからこそ、これからの研究を、先行研究との対話という形で進めたいと思う。ただ一方で、先行研究の中に、埋めるべきギャップが存在するのも事実である。ゆえに、こうしたギャップを埋めることによって、新たな知見を見出し、記憶の政治学という研究分野をさらに発展させていきたいと思う。そうすることで、前世代の研究者たちが私の研究に大きな恩恵をもたらしたように、私の研究も次世代の研究者たちに恩恵をもたらせることを願っている。
第三の目標は、実証的研究と規範的研究とのバランスをとることである。何よりもまず、将来のすべての研究を確固とした実証的基盤の上に成立させたいと思う。しかし同時に、可能であれば、こうした研究によって獲得された実証的知見を活用して規範的結論を導き出し、実践可能なものにしたいとも思う。特に、東アジアの平和と和解のために、戦争と植民地支配の歴史がもたらした、過去への「わだかまり」を解消することに貢献したいと思う。また、こうした「わだかまり」を完全に解消することができない場合でも、平和と和解が可能だという事実を広く認識させることに貢献したいと考えている。
研究テーマ紹介
私の研究は、比較政治学の観点に基づき、国内および国際社会における集合的記憶の政治性をより深く理解することを目指している。特に、現代社会における相容れない歴史認識の衝突によって生じる政治的摩擦の分析に軸足を置きつつ、自由民主主義社会と権威主義社会のこうした摩擦へのそれぞれの対処方法の類似と差異を考察する。また、自由民主主義国家同士の二国間関係における歴史認識問題への対処方法、そして、自由民主主義国家と権威主義国家の二国間関係における歴史認識問題への対処方法を比較的に考察する。
博士論文では、韓国とフィンランドにおける集合記憶の政治性を比較的視点から考察する。過去1世紀にわたり、両国の国内政治において、歴史が様々な形で、そして、様々な目的のために政治的に利用されてきた経緯を分析するとともに、韓国が日本や中国との国際関係において集合的記憶をどのように活用してきたか、そして、フィンランドがロシアやスウェーデンとの国際関係において集合的記憶をどのように活用してきたかを分析する。
また、韓国における「過去清算」や「積弊清算」、「日帝残滓の清算」などといった形で表れる、「清算」という概念を中心に、韓国の国内・国際政治の多様な事例を紐解きつつ、日韓の歴史認識問題に対する新たな解釈を提示する。さらに、「清算」という概念の、植民地時代にさかのぶる形成期を系譜学的に分析する。
また、こうした分析のためには、集合的記憶の政治性のより微妙な側面を捉えることを目的とした3つの新たな分析概念を考案し、その有用性を実証するが、1) 集合的記憶の「暗黙の時効」、2) 集合的記憶の「粘着性」、そして3) 集合的記憶の「分類メカニズム」、となる。
今後の研究では、これらの分析ツールをさらに発展させ、東アジアと世界の他地域における集合的記憶の政治性に対する質的分析に広く適用可能かつ包括的な理論的・方法論的枠組みを構築することを目指している。
研究画像