
東京大学 大学院総合文化研究科 学術研究員
2. 代表業績
若杉美奈子、「1970 年代前半における北朝鮮「脱陣営」外交と政策展開過程」、『アジア地域文化研究』、2017年、pp.68-93.
Wakasugi, Minako “North Korea’s Military Intentions vis-à-vis South Korea in the Mid-1970s and Kim Il Sung’s Compromise with Yugoslavia,” Journal of Cold War Studies, Vol. 27, No.2, pp. 179-215.
Wakasugi, Minako, The Formation of Vietnam-Cuba-North Korea Small Countries Solidarity on the Dispatch of Troops to Vietnam in 1966, Journal of Cold War Studies, forthcoming.
3. 専攻分野
冷戦史、北朝鮮外交
4. 目指す研究者像
歴史を紐解く作業を通じて、外交記録の書き手と読み手である自分との相互作用の中に、時空を超えて対話を交わしているような感覚を覚えることがある。これは外交史研究ならではの醍醐味であり、大きな魅力である。
近年では、北朝鮮外交史を一国の外交政策過程の解明にとどまる地域研究としてではなく、小国研究や冷戦史の文脈に位置付けることにより、研究の射程を広げる可能性を模索してきた。歴史を見る視点そのものを高め、その地点から見渡す歴史像とは何かを体現することが、研究における将来的な目標である。国際的な学術的関心に照らして問いを立て、厳密な実証に基づいて議論を展開することで、地域や分野を超えた普遍的な知見へと繋がる歴史を描き出したいと考えている。
その点において、理解し難いとされてきた小国アクターの行動を和解学の視座から歴史的に再検討することは、分野横断的な視点に基づく普遍的な学知の構築に寄与するものである。今後は、歴史学の実証研究に立脚しつつ、国際関係論、小国研究や和解学といった学際的領域に貢献し、海外の学術的議論にも積極的に参加できる研究者となることを目指している。
5. 研究テーマ紹介
これまでの研究では、30カ国を超える史料調査で収集した旧共産主義諸国や第三世界の外交文書をもとに、北朝鮮の外交政策の解明に取り組んできた。博士課程では、1960年代後半の北朝鮮の自主外交の過程を検討し、「共通の敵」という対立軸により形成された小国連帯の過程を明らかにした。この研究では、北朝鮮史料とベトナム、キューバ、東欧などの未公開一次史料から過程構築を行う、マルチ・アーカイバル・アプローチを採用した。
研究の端緒は、冷戦史の課題とされてきた「大国史観の克服」にある。歴史家のマクマンやウェスタッドが提起した「周縁(the periphery)を中心に据えた冷戦史」の実践として、小国に視座を置いた冷戦史の再解釈を試みてきた。
現在の関心は、1960年代後半に形成された「北朝鮮・北ベトナム・キューバ」小国連帯の1970年代における展開を、東欧の独自外交を展開する社会主義諸国、非同盟・第三世界の中立国、さらには資本主義諸国を含む多層的な連帯構造との比較を通じ、その変容過程を検証することにある。
この共感に基づく連帯の形態は、文化やイデオロギーの違いを越えて信頼と共存を築く方法を考察する和解学に貴重な視点を提供するだろう。
冷戦期における北朝鮮と第三世界諸国との関係は、「共通の敵」という対立軸を超えると、抑圧の経験と集団的記憶に根ざした「共感的理解」により形成された。これを踏まえ、本研究は「共感的理解」に基づく北朝鮮の第三世界への経済支援が、第三世界の国家建設に影響をもたらしたことを検討する。
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