ニューズレター・エッセイ

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和解学に関連するニューズレター・エッセイをご紹介します。

海外出張/滞在報告

イェナ滞在記 10月から11月にかけて

眞田 航

大阪大学 博士課程

私は現在、本国際和解学プロジェクトの若手育成の一環として、Friedrich Schiller University JenaのJena Center for Reconciliation Studies(JCRS)に客員研究員として所属している。本エッセイでは、イェナに滞在しはじめてからの約2か月間で経験したことについて、ごく簡単に紹介したいと思う。

受入教員であるMartin Leiner教授や、和解学に関するセミナーを担当してくださっているLaura Villanueva博士があらかじめ研究環境を整えてくださったおかげで、イェナへの到着直後から研究を開始することができている。

イェナは複数の図書館や大学施設が密集した小さい街で、非常に研究しやすい環境が整っている。街の中央にあるJentowerにはJCRSのオフィスが入っており、客員研究員にもフリーアドレスのデスクが与えられているため、平日はほぼ毎日そこで研究を行っている。JCRSには、哲学や神学を学問的背景にもつ方々から、より実践的な学問分野に従事する方々まで、数多くの研究者が所属しており、彼ら/彼女らはみなさん、他の学問分野の議論を積極的に取り入れながら研究をおこなっている。JCRSの研究環境は、「和解」というトピックが要請する学際性を体現するものだと言えるだろう。

さて、イェナに到着してからは、私はおもに暴力(およびその批判)の哲学の系譜をたどる研究に着手している。具体的に言えば、ヴァルター・ベンヤミンやフランツ・ファノンからスラヴォイ・ジジェク、ジュディス・バトラー、アシル・ムベンベ、酒井直樹にいたるまでの暴力の哲学の系譜を読解することを通じて、マイノリティとマジョリティの和解における「抵抗」の重要性を検討しはじめている。というのも、マイノリティの排除や抑圧それ自体が自覚的にあるいは無自覚に否認されがちであり、それゆえ和解の必要性それ自体が認識されていない現状においては、「トラブルを引き起こし、問題の存在と所在を示すこと」が和解の可能性の条件となるからである。

また、上記の研究や後述のセミナーおよび連続講演、オフィスでのディスカッションなどを通して、既存の制度化された発言・対話の場へのマイノリティの包摂が彼ら/彼女らの権利回復にとって一定程度重要であることはたしかだが、しかし同時に、その発言・対話の場そのものにしばしば無自覚な(あるいは構造的な)抑圧・排除が潜んでしまっていることを再確認した。和解のプロセスにおいては、そのような発言・対話の場にさえ浸透している既存の支配的な社会規範そのものへのラディカルな問い直しが必要となるのではないかと考えはじめている。

以上はいまだ着手しはじめたばかりの研究ではあるが、11月末に開催された1st Reconciliation Weekで発表させていただいた際には、多くの反響をいただき、上記の問題の重要性について再認識することができた。

また、だいたい月4-5回程度、Laura Villanueva博士による和解学のセミナーにも参加させていただいている。このセミナーでは、和解学一般が対象としている問題およびそれに関する先行研究の紹介だけではなく、Villanueva博士ご自身が取り組んでいらっしゃるコロンビアの事例についてなど、幅広い内容を学ぶことができている。

さらに、毎週木曜日には、JCRS主催で和解学に関する連続講演が開催されている。この連続講演では、毎週、政治学、歴史学、哲学など、さまざまな分野の研究者が和解をテーマとして発表をおこなっており、その都度新たな視点を摂取することができている。

以上のように、JCRSでの滞在は、私の研究人生にとってかけがえのない経験となっている。今後もイェナでの滞在から多くのことを学びたい。