今回のIARS学会への参加および研修旅行は、「和解」という極めて複雑かつ多面的な概念を深く考察する貴重な機会となりました。本報告では、特に、様々な分野・文化的背景における和解の定義、アプローチ、プロセスの多様性について、得られた知見をまとめて振り返ります。
文脈ごとに異なる「和解」の理解
研修旅行と学会参加を通じて、和解という概念は文化的・歴史的・学問的背景によって大きく異なることを実感しました。たとえば、ドイツ・イェナ訪問時には、特に強制収容所跡地で、ドイツが過去の歴史と向き合い、和解するための取り組みを見学しました。そこでは、歴史的暴力を静かに振り返らせるような演出がなされており、歴史認識と内省を促すアプローチが取られていました。
一方、アジア諸国の多くの歴史遺跡では、過去の惨劇をより生々しく、感情に訴えかける形で描く傾向があります。この比較から分かるのは、「和解」に普遍的な手法は存在せず、むしろ、文化的・歴史的文脈に応じて適応されるべきだということです。
また、加害者、被害者、傍観者といった異なる立場の主体それぞれが、和解に対して異なる見解を持つことも浮き彫りになりました。したがって、これらの違いを踏まえた柔軟なアプローチが必要であり、単一の「和解」定義では不十分であることが明らかになりました。
平和学における多様性:ASEANの事例
こうした史跡訪問の印象は、私がIARS学会で発表した研究「平和学における和解概念の構築――ASEANにおける語りと視点」とも一致します。この研究では、ASEAN諸国の高等教育における平和学教育を実証的に分析し、和解が平和学の中で副次的に扱われ、概念整理が不十分であることを明らかにしました。ASEAN諸国(マレーシア、インドネシア、タイ、ラオス、フィリピンなど)では、社会・宗教・文化的背景が異なるため、平和学のアプローチにも大きな多様性が見られます。例えば、マレーシアやインドネシアではイスラム教、タイやラオスでは仏教、フィリピンではキリスト教が主流であり、それぞれの宗教的・文化的枠組みによって平和や和解の概念が形作られています。このような多様性を尊重し、包括的な平和と和解理解を促進することが重要だと考えます。
新たに生まれた研究課題
IARS学会での発表後、梅森教授から「宗教間の平和プログラムの存在やその発展の可能性」について質問をいただきました。私の知る限り、そのようなプログラムはほとんど存在しないか、非常に限られています。しかしこの問いかけを受け、今後、宗教間理解と平和を促進する活動や教育単元をどのように設計できるかを考える必要性を感じました。
異なる平和教育のアプローチを橋渡しし、和解の共通理解を促進するためには、国際教育やグローバル市民教育が重要です。特にSDGs目標4.7では、「持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能の習得」が掲げられており、グローバル市民教育は人権教育や異文化理解を含んでいます。国際・越境プログラムを平和学に取り入れることで、学生が異なる文化・宗教背景を持つ他者と交流し、相互理解を深める機会が増え、平和と和解に対するより統合的な理解が可能になります。例えば、国際交流プログラムや共同研究プロジェクトを通じて、異なる平和構築アプローチを学び、比較し、実践的な理解を深めることができます。こうした教育実践は、異文化間対話と協働を重視するグローバル市民教育の理念にも合致しています。
政策提言と今後の研究課題
今回の研修旅行と研究発表を通じ、平和教育の多様性尊重と国際プログラムの促進が、平和と和解の共通目標達成に向けた鍵であると改めて確認しました。また、政策レベルでも、平和学プログラムにおける多様性の尊重と、共同で平和・和解を促進する取り組みの支援が求められます。
今後の研究では、グローバル市民教育を平和学カリキュラムに効果的に組み込む方法、越境プログラムが学生の和解理解に与える影響、また平和プログラムがどのように国境を越えた学びを活用しているかを探究していきたいと考えています。
結論
今回の研修旅行と学会参加を通じて得た最大の教訓は、平和教育において多様性を受け入れ、グローバル市民の視点を取り入れることの重要性です。多様な視点を尊重し統合する包括的アプローチを推進することで、教育機関は学生の和解理解を深め、より効果的な平和構築戦略の構築に貢献できると確信しています。