ニューズレター・エッセイ

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和解学に関連するニューズレター・エッセイをご紹介します。

2025ソウル 国際和解学会

国際和解学会第6回年次大会に参加して

眞田 航

大阪大学 博士課程

 2025年7月14日から18日にわたって、韓国のソウルで開催された国際和解学会第6回年次大会に参加した。本学会では、「分断に橋を架ける」というサブタイトルに沿った数多くの研究発表がおこなわれたが、そのどれもが刺激的なものであった。
 私の専門分野は哲学なのだが、哲学研究者は非常に少なく、参加者のほとんどが他分野の研究者であった。それゆえ、はじめてお会いする研究者の方々が多く、これまで親しんでこなかったトピックや研究アプローチに触れることができた。また、発表のあいまの休憩時間や、韓国にある非武装地帯近辺を訪れるエクスカージョンプログラムのあいだに、そういった方々との議論を楽しむことができ、大いに刺激を受けた。本学会への参加をきっかけとして、継続した交流をおこない、新たな研究ネットワークを構築することができれば幸いである。

 私の研究発表は、大会3日目の16日におこなわれた。私の発表は、“Framework of Reconciliation”と題された4人1組のパネルのなかに組み込まれていた。私見によれば、本パネルには理論的な研究に傾斜した発表が集められていた。
 私の発表のタイトルは、“The Contingency as the Condition of the (Im)possibility of Reconciliation: Contribution of Political Philosophy to Reconciliation Studies”(「和解の(不)可能性の条件としての偶然性:和解学への政治哲学の貢献」)であった。今回は、博士課程を修了してからはじめての正式な学会発表だったので、これまで専門としてきた近代日本哲学から離れて、ポストコロニアル理論を用いて「和解」を考察するという新たな内容に挑戦した。具体的に言えば、本発表は、日本思想史分野において著名なポストコロニアル理論家である酒井直樹とフェミニスト理論の大家であるジュディス・バトラーの政治哲学を用いて、国民国家の枠組みを問い直すものであった。また、それによって、「和解とはどのような実践であるべきか」、そして「そのような和解の条件とは何か」という問いに取り組むものであった。本発表は最終的に、そのような問いに対して、和解は決して予定調和的な実践ではなく、つねに偶然性に開かれた未完のプロセスでなければならないと答えた。
 Q&Aセッションは、パネルを構成する4人全員の発表が終わったあとに15分程度おこなわれた。その形式のおかげで、ひとつの質問に全員が答える場面があり、それが新鮮で興味深かった。ひとつの問いかけに各発表者が答えていくなかで、それぞれのアプローチの違いが明確になったように思われる。この点で、研究内容に関する学びだけではなく、今後、研究会を組織していく上での学びも得ることができた。

 自分の発表に関してはこれくらいにしておいて、次はとくに印象に残った発表についてごく簡単に触れたいと思う。それは、早稲田大学の国際和解学プロジェクトのメンバーである常石憲彦さんのご発表である。内容要約に関しては、常石さんご自身の参加報告を参照していただくとして、ここでは私の観点からみて興味深いポイントを記したい。
 常石さんのご発表は、“Humorous Propensity: Trans-textural Reading of the Disabled, Encountered, and Unended in the Postcolonial World”と題されたもので、いくつかの文学作品を横断的に読解しながら和解について考えるものであった。 常石さん自身がそのように言ったわけではないが、私から見ればそれは、偶然性に開かれた対話が治癒、回復、和解へとつながっていく様子を、文学作品を事例としながら議論するものであった。このような議論は、私自身の発表と連なるところがあり、非常に興味深かった。また、常石さんはそのような対話における「身体」の重要さについても議論しており、その点も興味深かった。というのも、身体は、私が紙幅の都合で発表から取り除いたまさにその論点であったからだ。和解の実践は、ひとびとの感情や情動を強く巻き込むものであり、それゆえ、和解を考えるためには、人間の理性的な側面だけではなく、身体的な情動をこそ捉える必要があるだろう。このことをふまえて、発表のすぐあとの休憩時間には、来年の国際和解学会でパネルを組む話が、常石さんとのあいだに持ち上がった。
 以上の報告に記載できたのは、国際和解学会で得た豊富な経験のごく一部にすぎないが、本学会への参加を通じてとにかく非常に有意義な経験を得ることができたということが伝われば幸いである。

 最後に、本学会への参加にあたって、早稲田大学の国際和解学プロジェクトのメンバーを率いてくださった早稲田大学の浅野豊美教授、小野坂元次席研究員に深く感謝を申し上げる。また、川口博子次席研究員は、ご本人は参加されないにもかかわらず、お忙しいなか事務的なサポートに尽力してくださった。記して感謝申し上げる。