早稲田大学和解学フォーラム
未来世代のために:世界遺産の解釈と展示をめぐる紛争と対話
紛争遺産の解釈をめぐる言説の衝突
平和構築と和解のための対話を育む多様なコミュニティの役割
ソウル大学校(国際学研究所)
早稲田大学(現代政治経済研究所・国際和解学研究所)
ICOMOS-ICIP
Our World Heritage(OWH)
プロジェクト名
未来世代のために:世界遺産の解釈と展示をめぐる紛争 (2025年国際セミナー)
背景
「近代化」、「植民地主義」、そして戦争に関連する遺産は、見過ごされてきた事実や証言を発見し、未来世代のために歴史理解を深める空間として機能する。確かに、これらの遺産は、集合的記憶と結びつくことで、しばしば深刻な対立や論争、感情的葛藤の場ともなるが、対話の中でお互いの相互理解を深める契機ともなろう。集合的記憶は、各国家内の異なる政治的立場を有する集団をも統合する働きを持つためである。
日本がユネスコ世界遺産に推薦した「明治日本の産業革命遺産」や「佐渡金山」の事例は、遺産が過去の解釈をめぐる対立の場となりうることを如実に示している。これらの対立は、国内外の政治状況によってさらに激化し、遺産をめぐる言説空間において異質な記憶が周縁化される結果をもたらしている。類似の事例は他国にも見られ、とりわけ脱植民地化や戦争の記憶をめぐる議論に顕著である。
したがって、歴史に対するよりバランスの取れた、統合的な理解を達成するためには、過小評価されてきた声をすくい上げつつ、新たなビジョンのもとに、それぞれ当然とされてきた歴史観に組み込んでいく必要性があるのではなかろうか。あわせて、偽情報や偏見、差別に対抗するうえでも、そうした作業は不可欠であろう。特に、対立的な遺産において多様な視点を取り入れるためには、地域社会および国際社会の双方が重要な役割を果たす。これにより、多様な立場を持つ関係者間での実質的な対話の基盤が築かれる可能性が高まると考えられる。
学術機関と市民社会組織との継続的な連携を通じて、近代化・植民地主義・戦争といったテーマをめぐる包摂的なナラティブを、遺産の現場において展開し、次世代が積極的に関与することは、平和構築と和解のプロセスに対して大きな貢献をなすと考えられる。2022年よりソウル大学とイコモスが中心となって開催してきた「遺産の解釈と提示に関する国際セミナー」は、こうした論点に関心を寄せる多様なステークホルダーが誠実な議論を交わすための貴重なプラットフォームとなっている。今までの経緯については、以下をご覧いただきたい。
※ 2024年「未来世代のための遺産の解釈と提示に関する国際セミナー」
テーマ:紛争遺産の解釈と提示──真実と平和構築に向けて:遺産と博物館の役割
(2024年6月24日/ロンドン・キングス・カレッジ(ブッシュ・ハウス)およびオンラインにて開催)
主催:ソウル大学校、キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)、ICOMOS-ICIP、Our World Heritage
(当日のビデオは こちら 、レポートはこちら)
※ 2023年「未来世代のための遺産の解釈と提示に関する国際セミナー」
テーマ:デジタル時代における戦時ナラティブの理解
(2023年6月15日/アムステルダム自由大学およびオンラインにて開催)
主催:ソウル大学校、アムステルダム自由大学、Our World Heritage
(詳細情報は こちら)
※ 2022年「第二次世界大戦遺産と若者参画に関するベストプラクティス共有国際セミナー」
テーマ:歴史修正主義への対抗──記憶・真実・正義に関する若い世代の関与
(2022年7月7日/米国ニューヨーク・ルービン美術館およびオンラインにて開催)
主催:ソウル大学校、記憶のための拠点の国際連合(International Coalition of Sites of Conscience)
(当日のビデオはこちら)
目的
● 戦争、植民地主義、権威主義体制に関連する遺産の解釈および提示に関するベスト・プラクティスを収集・整理すること。
● 紛争遺産の全体像を明らかにしようとする国内外の様々なコミュニティによる貢献を促進し、相互連携を推進すること。
● 遺産の歴史が抱える論争的性格および、平和構築の進展にとって包括的な歴史叙述の解明がいかに重要であるかについて、未来世代の理解を深めること。
今回、早稲田大学のセミナー概要
● 日時・会場:
2025年6月14日(土)/早稲田大学(東京)
● 主催:
ソウル大学校 国際学研究所(SNU)
早稲田大学 現代政治経済研究所・国際和解学研究所(WU)
International Scientific Committee on Interpretation and Presentation of Cultural Heritage Sites(ICOMOS-ICIP)
Our World Heritage(OWH)
● 参加者:
- 対面参加(約100名):
遺産の解釈および提示に関する専門家、博物館および遺産関係機関の代表、NGO関係者、学生、一般市民等(登壇者:約2~30名、一般参加者:約7~80名) - オンライン参加(約100名):
関心を有するすべての人々
● テーマ:未来世代のために:世界遺産の解釈と展示をめぐる紛争と言説の衝突
ー 平和構築と和解のための対話を育む多様なコミュニティの役割 ー
● 主な内容:
- 開会の辞:文化的記憶の国内政治、国際政治の中の機能と紛争・衝突の構図、構図を理解することによる互いの主体性の基盤・感情の対話と変容、未来世代が向き合う空間としての世界遺産の意義
- 専門家による発表:遺産の解釈と展示が有する複雑かつ多層的な性質、その理論的検討。多様な地域社会および国際社会の役割を通じて平和構築に向けた対話を促進する視点から考察を行う。
- 事例報告:地域の博物館や市民社会団体による紛争遺産に関する経験の共有と、対話に向けた可能性。
- 若手研究者および学生による発表:対立遺産の解釈と提示に対する独自の視点を提示し、課題に対する包括的理解とアプローチの必要性を提言する。
※ 若手参加者(登壇者4名(一名はオンライン)+ポスターセッション入賞者7名)は、共催団体によるアブストラクト公募を通じて、世界中から応募が行われ、選出された。
※ セミナー終了後、発表内容をもとに論文投稿を編集し刊行を予定。
● 使用言語:英語および日本語(同時通訳あり)
● 暫定プログラム
時間 | プログラム |
10:00-10:15 | 司会:長澤裕子(早稲田大学・和解学プロジェクト客員研究員/ソウル大学アジアセンター招聘フェロー) 歓迎挨拶:浅野豊美(早稲田大学・教授/和解学プロジェクト代表) 開会挨拶: 趙東俊(ソウル大学・政治外交学科 教授/国際学研究所副所長) ミズコ・ウゴ(Our World Heritage理事/学習院女子大学・国際文化交流学科 教授) ケリメ・ダニシュ(ICOMOS-ICIP 会長/オンライン参加) |
10:15-12:00 | セッション1:日本の世界遺産の解釈──なぜ不協和が生まれ、いかに和解しうるのか 司会: 浅野豊美(早稲田大学・教授/和解学プロジェクト代表) 発表(各15分): ・「争点化された日本の鉱山遺産──持続可能な遺産のための多元的理解」 中野涼子(金沢大学・国際学類 教授) ・「佐渡金山の登録・展示をめぐるプロセス」 坂井秀弥(新潟県立歴史博物館 館長) ・「脱植民地化と和解に向けたNGOの取り組み」 金 英丸(民族問題研究所 対外協力室長) パネルディスカッション(初回発言 各7分): ・崔在憲(建国大学・世界遺産学科 教授/ICOMOS-Korea会長) ・アンドリュー・ゴードン(ハーバード大学・歴史学科 教授/オンライン参加) ・岡田保良(国士舘大学・イラク古代文化研究所 教授/ICOMOS Japan会長 |
12:00-13:30 | ランチ休憩 |
13:30-15:10 | セッション2:紛争遺産の解釈──記憶と多様なコミュニティ間の対話 司会: 趙東俊(ソウル大学・政治外交学科 教授/国際学研究所副所長) 発表: ・「アウシュビッツの事例」 カミル・ゼイドラー(グダニスク大学・法学部 教授/ポーランド/オンライン参加) ・「過去は先住民のものである?──台湾東海岸における遺産解釈の再構築」 黄淑美(国立台湾大学・建築および都市計画研究科 教授) ・「喪失と意味の層──移行期シリアにおける包摂的な遺産解釈」 ヒバ・アルカラフ(キングス・カレッジ・ロンドン 研究員) ・「物語の奪還──アフリカ世界遺産における文脈的かつ包摂的な解釈に向けて」 トキエ・ラオタン=ブラウン(批判的遺産研究協会 会長/OWH理事/ナイジェリア・アイルランド) パネルディスカッション: ・朱玉傑(オーストラリア国立大学・人文学芸術研究科 准教授) ・シクハ・ジェイン(DRONAH創設者/第45回世界遺産委員会 元ラポーター) ・ベケー・ウケリナ(ニューヨーク州立大学コートランド校・歴史学科 教授 |
15:10-15:30 | Break |
15:30-17:20 | セッション3:未来世代の声と紛争遺産──平和構築と和解への道 司会: リン・メスケル(ペンシルベニア大学・人類学科 教授) 発表: ・「亡命を語る──チベット博物館における紛争遺産とコミュニティの政治」 デヴィナ・ディムリ(ロンドン大学ユニバーシティカレッジ・博物館学修士課程) ・「二項対立を超えて──韓国と日本における草の根の記憶と植民地遺産の和解的機能」 キム・ヒョンジェ(ケンブリッジ大学・遺産学博士課程) ・「博物館における困難な遺産の政治──ガーナにおける奴隷制の歴史」 フゼイマ・マハマドゥ(オーストラリア国立大学・芸術社会科学博士課程) ・「『二度と繰り返さない』という挑戦──中国本土における植民地監獄遺産解釈の再考」スン・ベイシ(リバプール大学・遺産学博士課程) ・「紛争遺産と制度的ナラティブ──東京国立博物館における小倉コレクションの批判的分析」 池上慶徳(国際基督教大学・平和研究 修士課程) パネルディスカッション(3名): ・長澤裕子(早稲田大学・和解学プロジェクト客員研究員/ソウル大学アジアセンター招聘フェロー) ・李 貞善 – 東京大学 大学院人文社会系研究科 研究員 ・金志憲(ソウル大学・国際学研究所 研究員/建国大学・世界遺産学科 兼任教授) ポスターセッション(本セッションと並行して実施): ・マーク・ガブリエル・ワガン・アギラー(南フィリピン・アカデミーカレッジ・公共行政博士課程) ・モハメド・ワヒード・ファリード・アブデルファッタハ(シャルジャ大学・遺産マネジメント修士課程) ・馬暁春(オーストラリア国立大学・遺産博物館学博士課程) ・セレステ・M・ホームズ=テイト(金沢大学・法学政治学国際関係専攻 博士課程) ・ジャック・ウィリアム・グリーンバーグ(独立研究者) ・曾俊嘉(国立台湾大学・建築および都市計画 修士課程) ・カトリーナ・ルドウィコフスキ(ニューヨーク州立大学コートランド校・歴史学部 学士課程 |
17:20-17:30 | 閉会 司会: 金志賢(ソウル大学・国際学研究所 研究員/建国大学・世界遺産学科 兼任教授) セミナー総括: 浅野豊美(早稲田大学政治経済学術院・教授/国際先導研究・国際和解学プロジェクト代表) 趙東俊(ソウル大学・政治外交学科 教授/国際学研究所副所長) |
※ プログラムは変更される可能性があります。