和解学週間(毎年2月末)
和解学週間
プロジェクト説明と会議参考資料
主催:国際共同研究加速基金・国際先導研究「普遍的価値と集合的記憶を踏まえた国際和解学の探究」(23K20033)プロジェクト(代表:浅野豊美)
共催
早稲田大学政治経済学術院・現代政治経済研究所
ナショナリズムと国際和解研究部会
早稲田大学・地域地域間研究機構
国際和解学研究所・アジア研究所
和解学週間へようこそ
国際和解学は、内戦や民主化に伴う社会的紛争後の和解を志向してきた紛争解決学の延長に、想像の共同体としてのネーションとネーションの和解のあり方を、「正義」との緊張関係をも含めて、学問の対象とするものです。実際、各ネーションに属する政治外交指導者、市民運動家、メディア関係者、そして我々研究者を含めた、公共性に関わるアクターは、現実の政治と対照させ、国民に向けて論争的に集合的記憶を普遍的価値や正義と絡めて利用しようとします。
ゆえに、国際和解学において対象とするのは、想像され、あるいは帰属の対象とみなされる集団や制度、つまり、階級、国民、ジェンダーなど、集団や制度を構成する要素としての記憶、価値、感情です。集団や制度を構成する要素に注目する流れの一方、他方では、目的や結果に結びつくものとして構成要素を捉えるのではなく、人間の行為そのものに注目して和解の本質を論じるアプローチも提唱されています(詳しくは『和解学叢書』明石書店、第1・2巻参照)。
こうした流れの一方、今回、ゲストでお招きする酒井啓子先生(千葉大学教授)を中心としたグローバル関係学においては、集団相互の関係もまた想像の産物であるとの指摘が行われています。想像される関係の中で、国際和解学は、想像力に働きかけることで集団や制度を構成する記憶や価値という要素に注目しながら、「和解」という関係が想像されていくようになるための条件を、社会経済的な「(下部)構造」と、人間の想像力が生み出す世界(想像界)とを意識しつつ、その間に挟まれた集団や制度、そして行為のあり方をめぐって考察するものということができるでしょう。集団や制度を作り出す要素そのものが、いかにジェンダー、エスニシティ、そして人権をめぐって、国際的な紛争を生み出しているのかに注目することで、「真正の和解」をめぐる感情的な議論は、むしろ、現在の国際社会を理解し、グローバル社会で我々を導く有力なツールへの糸口となるのではないかと考えます。
こうした議論は、日本だけにとどまってはいません。現状においては、国際和解学会International Association for Reconciliation Studiesが、ドイツのイェナ大学、アメリカのジョージ・メーソン大学、そして早稲田大学を、世界の三拠点として、2020年に設立されています。申請代表者もその設立に当初から関与し、第二回大会を東京で開催するのみならず、ドイツのNPO法人の資格を持つこの学会の副会長を務めるに至っています(その背景となった「国際和解学の創成」プロジェクトは、2017年から2022年度まで、文科省の新領域の科研費分野で行われ、SGUによるグローバルアジアプロジェクトによる若手研究者の育成と並行して展開されてきました)。
こうした研究と教育のネットワークによって創成された国際和解学の国際ネットワークを利用して、若手研究者を交流させ人材育成を行いつつも、国際的に注目される高い水準の研究成果を、各分野を融合させつつグローバル時代にふさわしいものとして、国際的な連携のもとで発信し、記憶や感情、価値に関わる議論の枠組みを、外交史、政治思想史、国際関係学、地域研究、比較政治学、市民社会論等の学問分野が協力し合い、それぞれの分野の中において充実させることが、この国際和解学の展開プロジェクトの目的と言えるでしょう。
我々の成果は、いずれ英語のBook seriesとなり、また、若手のそれぞれの学問分野での投稿論文となることでしょう。今回2025年2月の初めての「和解学週間」は、その最初の具合的な入り口です。また、ぜひ、本年9月17−24日に予定されている、米国の首都ワシントン近郊にあるジョージ・メーソン大学でのサマーセミナーへの参加もご検討ください。同大学の「平和週間」イベントに連動し、ウィルソンセンターや平和協会とも協力しています(詳しくは、会議冊子をご覧ください)。重ね重ね、ご参加をいただき、誠にありがとうございます。充実した議論を楽しみにしております。
(以下は補足です)
・国際和解学は、内戦や民主化に伴う社会的紛争後の和解を志向してきた紛争解決学の延長に、政治外交指導者、市民運動家、メディア関係者、文化人・学者というアクターと、そのアクター間で展開される市民間和解、政府間和解、そして国民間和解という性格の異なる和解と、その和解をめぐる紛争をも視野に入れて構築されています。
・従来学問的な焦点を当てられてこなかったものの、近年脚光を浴びている記憶や価値や感情というファクターを取り込んで、想像の共同体としてのネーションとネーションとの和解に焦点を当てますが、ジェンダーや階級、エスニシティー、ポピュリズムの問題も、激しい感情を伴い、普遍的価値と絡まる現象として議論の対象です。
・研究の背景として、2022年8月に米国のワシントン郊外にあるジョージ・メーソン大学で開催された第3回国際和解学会世界大会が挙げられます。そこでは、同大学の若手研究チームと、ドイツから来訪したイェナ大学JCRS(Jena Center for Reconciliation Studies)の若手研究者チームが、中東とアフリカをメインのフィールドに、紛争と和解に絡まる討論を盛んに繰り広げました。こうした討論に東アジアを代表して参加できるような若手研究者のチームが必要であることを痛感させられたことが、国際和解学を普遍的価値と集合的記憶を焦点に探究せねばという問題意識を生み出した次第です。ぜひ、次はジョージ・メーソン大学でお会いしましょう(本P D F の5コマ以後参照)。
2025年2月26日
国際共同研究加速基金・国際先導研究「普遍的価値と集合的記憶を踏まえた国際和解学の探究」(23K20033)
プロジェクト代表:浅野豊美