グローバルヒストリー哲学・心理学
阪野 搖
Yoh Banno

早稲田大学 博士課程
専攻分野
近代日本思想史
目指す研究者像
理論的な卓抜さと、実証的な堅実さという二兎を追うこと
研究テーマ紹介
和解学プロジェクトの一環として、林達夫という特定の歴史的個性の中から現在なお参照に足る「普遍的価値」を汲み出すことを目指す。その際、以下の二点に照準を合わせる。第一は林の編集手腕である。とりわけ昭和戦前期に左翼文化運動が硬直化した時、党によって弾圧されたマルクス主義者に対して、自らと異なる思想の持ち主であるにも関わらず、『思想』の紙面を提供した林の差配に注目する。というのも、和解というものが対立する両者の間で成立するのであれば、ここに見られるような、異論を許容する言論環境を維持する態度は、その前提として不可欠のものだからである。このような視座から林の思想がどのように形成され、また発展していったのかを考えるのが、ここでの課題である。
第二は理性と感情の相克である。林は戦時下、情念に対置させる形で理性の優位を強調している。これは同時期の感情的な、すなわち非合理的な発言への批判として十分納得できるものである。しかしながら、このような時代状況を度外視した場合、果たして理性と情念は常に対立関係にあるのか、さらに言えばそもそも両者は別個に存在しているのか、この点は決して自明ではないように思われる。例えば情念が合理的な認識の端緒となる可能性や、あるいは情念が理性をより高次の認識へと導く可能性はないのか、こうした視座から林を批判的に読み直すこともまた、ここでの課題となる。というのも前述のように、和解というものが対立する両者の間で成立するのであれば、そこで感情の摩擦が生じる可能性は極めて高く、従ってそのような情念とどう向き合うかは、重要な論点となるからである。
ワーキングペーパーの仮題目
思想的アリーナの存立条件を巡る考察-林達夫を素材として-