ニューズレター・エッセイ

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和解学に関連するニューズレター・エッセイをご紹介します。

2026 イギリス・ドイツ

和解学サマースクール参加報告書

元山 仁士郎

一橋大学 一橋大学大学院法学研究科特任講師(ジュニアフェロー)

1.参加概要

2026年9月27日から10月3日にかけて、早稲田大学の和解学研究プロジェクトの一環として、英国・ケンブリッジ大学およびドイツ・イエナ大学で開催された国際会議・サマースクールに参加した。ケンブリッジ大学では、9月28日・29日に「Political Imagination Beyond National Borders: Reconciliation in Postwar East Asia」が開催され、戦後東アジアにおける和解をめぐる歴史認識、外交・安全保障、文化、記憶の問題について研究報告と討論が行われた。続いて、10月1日にはイエナ大学で「Asian Perspective on Reconciliation Studies」が開催され、和解研究の理論的枠組みや、アジア諸地域における具体的な事例について議論した。また、10月2日にはライプツィヒを訪問し、冷戦終結とドイツ統一に関する現地研修に参加した。

本サマースクールでは、異なる地域や専門分野の研究者との交流を通じて、和解という概念を歴史的・理論的に検討するとともに、アジアの諸問題を国民国家の枠組みを超えて捉え直す貴重な機会となった。

2.ケンブリッジ大学での研究報告・討論

9月28日の会議は、バラク・クシュナー(Barak Kushner)ケンブリッジ大学教授による開会挨拶と、浅野豊美早稲田大学教授による基調講演から始まった。浅野教授の講演では、国家間の和解を考えるうえで、歴史認識や政治的言説を共有することの重要性が論じられた。特に、日韓関係において歴史をめぐる「共通の通貨(common currency)」が十分に形成されていないという指摘は印象的であった。また、民主主義が「われわれ」という共同体意識を前提とする一方、その共同体の範囲を民主的な手続きだけで決定することは困難であるという問題提起から、国内政治と国際政治が相互に影響し合う構造について考える機会となった。

午前中には、曲(Qu Yang)氏により、戦時プロパガンダと戦後の記憶形成、中国・日本の文化表象に関する報告が行われた。また、カオ(Simin Cao)氏により、日中のBL漫画に見られる伝統・非伝統的なものの表現に関する報告が行われた。とりわけ、戦争責任をめぐる中国社会の言説の変化や、文化作品におけるジェンダー表象の問題など、従来の政治外交史とは異なる視点から和解を捉える研究に触れることができた。

午後には、藤田吾郎氏による重光葵のアジア地域主義と戦後安全保障構想、井上史氏による戦後日米安全保障体制の形成、濵砂孝弘氏による1950年代の日本国憲法と沖縄をめぐる報告が行われた。藤田氏の報告では、重光がアジアのナショナリズムと米国の軍事的関与の双方を意識しながら、国際協調思想と国連憲章に基づいた戦後の地域秩序を構想していたことが紹介された。

同日最後の報告者として、私は「1969年佐藤・ニクソン合意の再検討:米核戦略と沖縄返還(Reinterpreting the 1969 Sato-Nixon Agreement: U.S. Nuclear Strategy and the Okinawa Reversion)」と題する研究発表を行った。本報告では、1969年の佐藤・ニクソン合意を、日米両政府間の外交交渉だけでなく、米国の核戦略および軍事作戦計画との関係から再検討した。特に、沖縄からの核兵器撤去と、ソ連・共産圏との全面核戦争を想定した単一統合作戦計画(Single Integrated Operation Plan: SIOP)や朝鮮半島有事への対応を含む米国の軍事的要請との関係に着目し、沖縄返還交渉を冷戦期のアジア・太平洋安全保障秩序の変容のなかに位置づけることを試みた。

(写真1)元山発表(イギリス・ケンブリッジ、9月28日、池上慶徳氏撮影)

総合討論では、戦後日本の和解を日米二国間関係に限定せず、中国、朝鮮半島、東南アジアを含む多国間の関係から捉える必要性が指摘された。また、クシュナー教授からは、研究成果を専門外の聴衆にどのように伝えるかという問題提起がなされた。自身の研究についても、沖縄返還を日米関係史の枠組みにとどめず、東アジア全体の国際秩序や戦後和解の問題と結びつけて論じる重要性を再認識した。

9月29日には、文化遺産の返還、歴史的暴力の記憶、英雄とテロリズムの表象などを主題とする報告が行われた。池上慶徳氏の報告では、日韓間の文化財返還をめぐり、日本側の「寄贈」と韓国側の「返還」という異なる言説が、1965年の日韓国交正常化の枠組みと結びついていることが示された。また、米沢達也氏の報告では、韓国の東学農民戦争を記憶する慰霊碑の建立過程が取り上げられ、犠牲者の立場を問わず名前を刻む試みと、沖縄の「平和の礎」との関係が紹介された。また、ビョルン(Björn Wickman)氏の報告では、韓国とフィンランドの比較を通じて、英雄やテロリストをめぐる歴史的評価の相違に着目し、集合的記憶が国内政治や国家間関係において果たす役割が検討された。これらの報告を通じて、文化財や慰霊碑が単なる歴史の保存手段ではなく、現代の政治的正統性や集合的記憶の形成に関わることを学んだ。

3.イエナ大学でのサマースクール

9月30日に英国からドイツへ移動し、10月1日にはイエナ大学で開催された「Asian Perspective on Reconciliation Studies」に参加した。

午前中には、マーティン・レイナー(Martin Leiner)教授による「Negotiation and Reconciliation」と題する講義が行われた。講義では、17頭のラクダを相続人に分配する寓話を用いた意見交換が印象的だった。この議論は、和解を単なる妥協や利害調整としてではなく、当事者の認識や関係性の転換を伴う過程として理解するうえで示唆的であった。

午後には、チャウ(Cao Thi Minh Chau)氏によりドイツにおけるベトナム系移民社会の内部的和解、フィジア(Huijia Teh)氏によりマレーシアの大学におけるSDGsとグローバル・ガバナンス、サクティ(Arauf Aji Harindra Sakti)氏によりインドネシアの中等教育における宗教的寛容をめぐる報告が行われた。和解が国家間の外交問題にとどまらず、移民社会、教育制度、宗教的共同体など、さまざまな社会的領域に関わる課題であることを理解する機会となった。

10月2日にはライプツィヒを訪問し、レイナー先生の案内で冷戦終結とドイツ統一に関する現地研修に参加した。最終日には個人でベルリンにあるベルリンの壁博物館に足を運んだ。東西冷戦の終結を、国際政治上の出来事としてだけでなく、地域社会や市民の歴史的経験と結びつけて考える機会となった。

(写真2)ベルリンの壁博物館(ドイツ・ベルリン、10月3日、元山撮影)

4.参加成果と今後の研究への展望

今回のサマースクールを通じて、和解研究が外交史、政治学、文化研究、記憶研究、教育学など、多様な学問領域を横断する研究分野であることを改めて認識した。特に印象に残ったのは、和解が必ずしも国家間の合意によって完結するものではなく、歴史認識の共有、社会的な記憶の形成、当事者間の継続的な対話によって支えられるという点である。

私自身が取り組む沖縄返還と米国の核戦略に関する研究についても、沖縄返還を日米両政府間の外交的合意としてのみ捉えるのではなく、沖縄社会の経験や東アジアの安全保障秩序との関係から再検討する必要性を感じた。また、日米関係を中心とする分析を、朝鮮半島、中国、太平洋島嶼地域を含む広域的な歴史のなかに位置づけることは、今後の研究を発展させるうえで重要な課題である。

さらに、各国の研究者と英語で議論を重ねたことは、自身の研究の問題意識や意義を国際的な聴衆に伝えるための貴重な経験となった。今後は、今回得られた知見や研究者との交流を活かし、冷戦期の安全保障政策と戦後和解の関係について、より多角的な視点から研究を進めていきたい。

〔付記〕本研究プロジェクトは、日本学術振興会科学研究費補助金(23K20033および26K24181)、三島海運記念財団研究助成(2025年度)、および村田学術振興教育財団研究助成(2025年度)の支援を受けている。