メンバー

Members

和解学を共に研究するメンバーたちです。

哲学・心理学安全保障と人権研究協力者

片山夏紀

Natsuki Katayama

Natsuki Katayama

都留文科大学 専任講師テニュア

代表業績

  • 『ルワンダの今:ジェノサイドを語る被害者と加害者』風響社、2020年
  • 「『ジャガイモをおいしくするもの』: 笑いを誘うルワンダ詩」スワヒリ&アフリカ研究 (31) 1-16、2020年
  • 「スワヒリ語を話すルワンダ人」スワヒリ&アフリカ研究 (34) 70-87、2023年

詳細はURL参照 https://researchmap.jp/72ki

専攻分野

アフリカ地域研究

目指す研究者像

ルワンダのジェノサイド(集団殺害)から30年が経過し、過去の出来事として忘却されていくなかで、当事者の証言や歴史について、現地調査や文献調査で収集した正確な情報を発信し続ける研究者を目指す。

またジェノサイド後の情勢に幅広く関心をもち、調査することを目指す。例えば、2022年4月にルワンダはイギリスと「移民と経済開発パートナーシップ」を結んだ。これは、ドーバー海峡を超え違法にイギリスに来た庇護申請者をルワンダに移送し、イギリスがルワンダに資金援助するという内容である。2024年4月に法律が成立し、7月に移送が行われる予定であり、この動向に着目している。

研究テーマ(プロジェクトのキーワード「普遍的価値」および「集合的記憶」と自身の研究の関連性)

ルワンダにおけるジェノサイド後の被害者と加害者の関係構築について、「ガチャチャ裁判」が命じた賠償に着目し研究している。

ルワンダでは1994年にジェノサイドが起こり、100日間で少なくとも50万人以上が虐殺され、国外へ逃れた難民は数百万人にのぼる。これほど深刻な被害が出たのは、多くの民間人が扇動され、犯罪に加担したためである。この夥しい数の犯罪を通常の司法で裁くには100年以上を費やすとされ、「ガチャチャ裁判」が臨時で施行された。この裁判は全国の市町村に1万2,000箇所設置され、司法資格をもたない住民が判事となり、およそ10年間で195万件(被疑者100万人)を審理した。

このガチャチャ裁判が加害者に命じた賠償の実態を調べるため、複数の農村に2年住み込み、ジェノサイドの被害者と加害者、ガチャチャ裁判の判事を中心に97名に聞き取り調査を行い、政府と交渉し非公開のガチャチャ裁判の裁判記録を閲覧し、当事者の証言と照合した。

この研究プロジェクトは、様々な地域で普遍的価値と集合的記憶がどのように結び付けられ、国民感情がうまれ、社会に根付いているのかを考察し、それらの事例を国際和解学として体系立てることを目指す研究である。

ルワンダの場合、ジェノサイド後に樹立された政権は、民族が分断され起こったジェノサイドを繰り返さないため、身分証明書に民族を記載することをやめ、民族に関係なく全てが「ルワンダ人」であるとし、国民統合と和解という普遍的価値を打ち出してきた。

フトゥ急進派がジェノサイドを扇動し、トゥチが虐殺されたことを、ルワンダ政府は「トゥチに対するジェノサイド」とする。しかし当事者の証言や先行研究によれば、トゥチに加え、ジェノサイドに反対したフトゥやトゥワも殺害されているが、犠牲者であると公式に認められていない。また、1990年以降のトゥチ中心の現政権による戦争犯罪はほとんど裁かれていない。現政権は、ジェノサイドの加害者フトゥが被害者トゥチに謝罪し、両者が和解するというストーリーをつくり、加害者には赦しを求めること、被害者には加害者を赦すことを強いている。ガチャチャ裁判も、加害者の自白と謝罪、被害者の赦しに沿って犯罪を審理した。

現政権は「ルワンダ人」として国民を統合する一方で、ジェノサイドの公式な犠牲者をトゥチに限定し、フトゥは加害者であると線引きをする。このことは、フトゥであるがゆえの「集団的罪悪感(collective guilt)」を抱かせている。またトゥチは和解の普遍的価値を強いられ、加害者に対して「赦せない」という感情をあらわにすることができない。このような国民感情と、現政権が唱える普遍的価値や集合的記憶の間に葛藤がうまれている【図参照】。

ジェノサイドの当事者は、ジェノサイド前から住民同士として関わり合ってきたことを記憶しており、凄惨なジェノサイドで被害者と加害者に分断されたことも記憶し、それでもなおジェノサイド後も関わり合い関係をつくることを記憶していく。このプロジェクトでは、当事者がジェノサイドで分断された関係を再びつくり、記憶していくことを研究する。

提出用ワーキングペーパー仮題目

How victims and perpetrators collect memory in Rwanda genocide?(ルワンダにおけるジェノサイドの被害者と加害者の集合的記憶)

研究画像

農村の日曜礼拝